JAMA Published online July 14, 2022
気候変動が原因で発生する可能性が高い破壊的な熱波、洪水、野火は、米国で過去5年間に年間平均1480億ドルの被害をもたらしている1。ヘルスケアの分野においては、すでに米国の全温室効果ガス排出量の8.5%に当たる量の削減を達成し、気候変動への耐性を高めるための進歩が一定程度見られたが、さらに多くのことが必要である。現在までに、国内の病床の半分を提供する国内最大の50のヘルスケアシステムのうち、排出削減の目標を設定しているのは19のみである2。進歩を加速するために、気候変動対策はヘルスケアの基本的なゴールと患者中心性と健康の衡平性の促進とを統合する必要がある。
ヘルスケア部門での気候変動(災害)対策とは、多くの場合、たとえば、冗長電源システム、防火障壁、洪水壁の設置などを通じて、洪水、火災、および極度の温度上昇に対する耐性を高めるための措置を講じることを意味する。これらの対策は施設の運用を維持するのに役立つが、極限イベントが発生したときによくあるように、患者やスタッフが施設にアクセスできなくなった場合はどうなるであろうか?脱炭素化に関して言えば、ヘルスケアの総二酸化炭素排出量の18%のみが、電力消費も含めてヘルスケア施設までたどることができ、残りは主に食品、医薬品、使い捨て用品などのサプライチェーンに組み込まれている3。このことは、ヘルスケアにおいては、再生可能エネルギー源で電力供給することによってしか、脱炭素化の目標を達成できないことを意味する。
衡平かつ患者中心の気候変動対策に取り組むということは、健康格差が著しく明らかな地域で、ケアを受ける機会に恵まれない個人に対して、投資を優先することを意味する。より巨大で、より裕福な医療システムでは、回復力と脱炭素化を実現しやすいが、低所得の都市近郊や農村地域における、小さく、不利な立場にあるシステムではそうはいかない。脆弱なコミュニティは広く分散しているが、1353のクリティカルアクセス病院(CAH)、200の不均衡な共有病院(DSH)、1400の連邦資格のあるヘルスセンター(FQHC)、および無料の慈善クリニックへの投資を通じて援助が可能である。FQHCだけでも、推定3,000万人の低所得者の医療をカバーしている。
最前線の施設で治療を受ける患者は、通常、大気や飲水など、日常生活のあらゆる面で気候変動に関連する不均衡な健康上の負担に直面する。たとえば、米国では、黒人とヒスパニック系の人々は、白人が呼吸する空気よりもそれぞれ46%と39%、より汚染された空気を呼吸している4。飲料水用の私有井戸を使用している農村地域では、気候変動によって起きやすくなった豪雨やハリケーンによって化学物質や微生物による汚染を受けた井戸水による毒性物質曝露や伝染病にさらされている。 2017年には、ハリケーンハービーの後、テキサス州の推定223,000人が安全な飲料水を利用できなくなり、安全な水の復旧には人種的少数派の低所得コミュニティの人々が最も長く待たされた5。突発的な事象による電力不足は農村地区の施設(およびより大きな都市の水処理プラント)を利用不可能にした。
衡平かつ患者中心の気候変動対策への投資は、ケアへのアクセスの確保と脱炭素化に同時に貢献することができる。たとえば、プエルトリコの84のFQHCは、2017年のハリケーンマリアとイルマの後に太陽光発電に変換された。これらのセンターの80は、2022年4月のサーキットブレーカー故障による島全体の停電後、ケアの中断を最小限にとどめて稼働し続けた。バックアップの電力貯蔵を備えた太陽光発電は、熱波や火災によってますます頻繁に起こる停電に耐えうるクリニックの生命線であることも証明されている。ワイオミング州ララミーにある無料のダウンタウンクリニックは、ロッキーマウンテンパワーユーティリティからの助成金と利用者からの寄付を受けて電力貯蔵付きの太陽光発電を設置し、複数回の停電被害の中でも稼働し続けている。診療所への介入も飲料水の供給を保護してきた。診療所併設の太陽光発電の送水ポンプとろ過装置は低―中所得地方で増加しているが、テキサス州ヒューストンのホープクリニックなどに見られるように、米国の一部の地域においてますます普及しつつある。
ヘルスシステムは、再生可能エネルギー源に投資し、大気汚染の削減を通じて温室効果ガスの排出を削減し、健康を促進することができるが、再生可能エネルギーの導入や再生可能エネルギーの購入契約によってもたらされる健康と気候に対するメリットは、場所によって異なる可能性があることに注意が必要である。たとえば、電力網が石炭に依存している五大湖と中西部北部における再生可能エネルギー導入による健康と気候のメリットは、カリフォルニアや南西部のような場所の4倍にもなる6。これは、ヘルスシステムが太陽光と風力に投資することで、同等の炭素削減を達成しながら、ペンシルベニア州ではフロリダ州よりもより多くの健康の衡平性に貢献できる可能性を示している。米国の黒人とヒスパニック系の人々は、化石燃料による大気汚染の影響を受けた空気をより多く吸い込み、より多くの健康被害を受けているので、健康関連の再生可能エネルギー投資から最も恩恵を受ける可能性がある。
多くの患者中心の気候変動対策は、場所に関係なく、健康の衡平性を高めるであろう。病気の予防、検査と治療の乱用の最小化、異常気象のリスク患者の保護、および質の高いケアはすべて、ケアの提供に起因するヘルスケア関連温室効果ガス排出量の削減に貢献する。早期死亡の20%から40%7、および修正可能な疾病リスクファクターに起因する全医療費の25%8を再生可能エネルギー投資に向けるようにすれば、医療従事者がより健康的な食事や、節煙〜禁煙、予防医療を通じて患者の心血管疾患の発生率を下げるたびに、温室効果ガスの排出量は減少することとなる。特筆すべきこととして、処方箋の5分の1、検査の4分の1、処置の10分の19、およびサプライチェーンの支出の約17.4%は、潜在的に不要であると考えられている10。すでに全国の多くのケア分野で不必要なケアを減らしてきたChoosing Wisely campaignにより、ケアが改善され、コストが抑制され、温室効果ガスの排出が削減されるであろう。
米国保健社会福祉省(HHS)からの最近の医療部門への気候行動の呼びかけと、医療の脱炭素化に関する全米医学アカデミーの行動協力により、国は衡平かつ患者中心の気候行動を実現する態勢を整えてきており、多くの資金源がそれをサポートしている。新たに議会の予算承認を受けなくても、HHSは、システムの収入に基づいて、衡平かつ患者中心の気候変動対策に資金提供するための回転ローンファンドを設けることができる。価値に基づく診療報酬の革新は、患者のケアの結果を気候の目標と一致させ、現在制限されているヘルスプロモーションプログラムを強化するであろう。 FQHC、DSH、およびCAHは、州および地方政府と協力して、連邦緊急事態管理庁の回復力のあるインフラストラクチャおよびコミュニティ建設(BRIC)プログラムを通じて助成金を取得できる。このプログラムは、2022年に50州すべてに合計10億ドルを超える助成金を配布する。公益事業者は、自主的な寄付または強制料金を通じて、介護施設用のバッテリーバックアップを備えた再生可能エネルギーシステムの資金を調達することができる。ほとんどの州はすでに公益事業にこの方法で資金を調達するように指示しているが、リスクのあるコミュニティの医療施設に優先的に行われているわけではなさそうである。記録的な人員不足、人件費の増加、収入の不足など、医療における主要なロジスティックおよび財政上の課題により、ヘルスケアにおいても気候目標追求の必要性がますます重要になっている。気候変動への衡平かつ患者中心のアプローチにより、ヘルスケアは気候変動に対する義務とすべての人々に質の高いケアを提供する責任の両方を果たすことができる。