家庭医療とは
家庭医の定義はいろいろとあります *1 *2 *3 *4 *5 *6 が、簡単にいうと、身近な存在で何でも相談がしやすい、「かかりつけ医」です。その患者さんが抱えるすべての問題について、初期評価を行い多職種協働で支援、ケア、治療を継続的に提供していきます。たとえば、高血圧症で、通院されていた60代女性がおられたとします。その方の孫の予防接種を提供、お孫さんの中耳炎の治療、父親の喫煙を把握し、卒煙支援、嫁姑問題の相談、親を介護する苦労を傾聴、うつ状態になるようならその治療、在宅ホスピス緩和ケアの提供、グリーフケアなど人生の様々な局面で関わることができ、非常にやりがいのある仕事です。
その間に、必要ながん検診、行動変容など予防的視点を常に持ちながら診療を継続します。疾病だけでなく、その方の病体験、ライフヒストリー、生きがい、生活背景などの文脈を含めて全人的に理解しようと努め、より最善な状態になることを目指して相談しながら進め、*7 よくなったことをともに喜び、辛いときにはそばにいる存在であり続けます。もちろん、すべての問題を家庭医が解決することはできず、専門医に適切にコンサルトや紹介をしてその方にとって最善のケアを提供する責任をもち、再びかかりつけ医として関わり続けます。また、医療資源を適正に活用することにも配慮します。
家庭医になるためには、単にスーパーローテーションをすればよいわけではありません。もちろん各科の知識、技能を学ぶ必要はありますが、それらの知識を統合したうえで、「患者中心の医療」*7 で科学的に体系づけられた個人のケアを提供し、「家族志向のプライマリ・ケア」*8 で家族を含めたケア、「地域包括プライマリケア」*9 で地域全体を視野に入れたケアを行い、地域づくりにも関与することがあります。
The good physician treats the disease;
the great physician treats the patient who has the disease.
William Osler
参考文献
- McWhinney’s Textbook of Family Medicine Principles of Family Medicine
- 特定非営利活動法人 日本家庭医療学会 設立趣旨書
http://plaza.umin.ac.jp/jafm/html/syushi.html - 米国家庭医療学会 家庭医療の定義
https://www.aafp.org/about/policies/all/family-medicine-definition.html - WONCA-EUROPE 家庭医療の定義 2011
https://www.woncaeurope.org/file/520e8ed3-30b4-4a74-bc35-87286d3de5c7/Definition%203rd%20ed%202011%20with%20revised%20wonca%20tree.pdf - プライマリ・ケアとは 日本プライマリ・ケア連合学会
http://www.primary-care.or.jp/paramedic/ - 家庭医とは何か―諸外国の最新事情 葛西龍樹 日内会誌 105:736~746,201
- Patient-Centered Medicine: Transforming the Clinical Method third edition Moira Stewartら著
- 家族志向のプライマリ・ケア Susan H. McDaniel著 松下 明 翻訳
- 地域医療学序論I(概念) 宮田 靖志 日内会誌 103:466~474,2014