2021年8月7日〜9日に開催された第33回家庭医療学夏期セミナーにおいて、セッション「コーチング:人生100年時代のエッセンシャルスキル」を行いました。近年、ナレッジ・マネジメントの重要性が高まるにつれて、従来の指揮統制型の教育や組織管理の限界が指摘されています。生涯にわたる研鑽(人生100年から逆算して、長い方だと70年、80年に及ぶでしょう)において、思考を刺激し続ける創造的なプロセスを通して、自身の可能性を最大化させるにあたり1)、コーチングは強力なツールとなります。医療分野においては、家庭医・総合診療医の活躍する領域は医療機関・診療科の間のコーディネート、多職種連携、生物・心理・社会面への配慮、Advanced Care Planningなどまさに高度な知的労働と言えます。
コーチングというとスポーツにおけるコーチや、生活習慣病の患者教育における手法などをイメージされる方も多いかもしれませんが、専門職としてのキャリアアップ、またはキャリアチェンジの目的を意識化したり、内的なモチベーションを高めて成功を収めるためにも有効です。
そのコーチングのエッセンスを、いかに濃縮しても2時間のセッションで伝えることは難しく、反転授業形式を採用しました。反転授業形式とは、まず授業を行い、後に内容の定着を確認する課題を提示する従来型の授業とは逆に、事前に知識レベルの内容を動画などの教材を用いて提供し、セッション当日は実践的な内容を取り扱う形式です。今回は、事前の動画で、①なぜコーチングが必要なのかを主にキャリアアップの視点から、②GROWモデルに代表されるコーチングの基本構造、③コーチングですぐに使える7つの質問2)の3点セットで説明し、セッション当日は①GROWモデルに沿ったペアワークの演習、②コーチングのミニセッション、③合間にコーチングの脳神経科学的背景3)のミニレクチャーの3点セットの構成にしました。
当日の狙いとしては、日常会話やティーチングの文脈とは相当異なる仕方で思考の刺激が出来るということを経験していただくことを重視しました。これだけ事前に学習しても、相当にタイトなセッションとなりましたが、当日参加された学生・研修医の皆さんの満足度は高かったものと感じています。
キーワード:#人生100年時代 #コーチング #モチベーション #キャリア #夏期セミナー #家庭医療 #反転授業 #GROWモデル #思考の刺激
記事作成者:山田豊(京都民医連中央病院 総合内科)
参考文献
- 国際コーチ連盟日本支部ホームページ.http://icfjapan.com/coaching
- Stanier MB. The coaching habit: Say less, ask more & change the way you lead forever. Page Two. 2016.
- Boyatzis R, et al. Helping people change: Coaching with compassion for lifelong learning and growth. Harvard Business Review Press. 2019.